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僕たちが売るのは、ただの黒い液体じゃない。夫婦で営む「タケシゲ醤油」の話【後編】

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、
想いのつまった"モノ"とそれを届ける""たちがいます。
このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーや
お店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
福岡県福岡市にある「タケシゲ醤油」さん。200年以上の歴史をもつ「五福醤油」の味を引き継ぐ、人気の醤油店さんです。醤油店を継ぐ経緯を伺ったインタビュー前編に続き、後編では、話題の調味料「博多ニワカそうす」の誕生秘話に迫ります。

 

「タケシゲ醤油」代表・住田 友香子さん
取締役・住田 良幸さんにお話を伺います

業者にしか販売していないはずなのに…

ゆかこさん
2008年ころだったかな。ある日、事務所に「たれをください」とお客さんが来られたんです。

「たれ」ですか?

私たちも聞いたことがなくて。倉庫の奥に眠っている一升瓶をやっとみつけだしてきたんです。…それがこれ。

ほんとうに「たれ」と書かれています

ど直球な名前ですね。

ゆかこさん
どうやら昔から水産加工業者に卸していた調味料で、一般の方へ販売していないものだったんですね。なので、なぜこの人が「たれ」を知っているのか、首をかしげながらお渡ししたんです。

うーん?

そしたらまた数日後、今度は別のお客さんがやってきて、やっぱり「たれをください」と言うんです。

不思議ですね。

聞いてみたところ「勤め先の水産加工会社から家族が『たれ』を持ち帰ってきては、あらゆる料理に使っていた。ところが会社が倒産して『たれ』が手に入らなくなり、いつもの料理ができず困っていた」と言うんです。

業者に卸していたつもりが、じつは家庭料理にも使われていたんですね。

ゆかこさん
そうなんです。ただ魚の加工用調味料ですから、ドロッとして甘くて、家庭料理になんか使えないと私は思い込んでいたんです。

う〜ん、ベトベトしそうな…。

そうですよね? それで「一体どんなふうに使っているんですか?」と尋ねたら「とにかく豚肉を焼いて火を止めて『たれ』をかけて、おろし生姜を入れてみて!」と言うんですよ。

…生姜焼きができるんですか?

私もぜんぜん期待していなくて「お肉がもったいないな〜」なんて思いながら、言われたとおりにやってみたんです。で、一口食べてみると…もう…「なんだこれは!!」レストランの本格的な生姜焼きの味なんです。

からめるだけで、本格的な味になるなんて…?

ゆかこさん
「こんなものがうちにあったのか!」という衝撃で、そのあともいろいろな料理に試してみたんですよ。そしたら、あっというまに味は染みるし調味料の組み合わせで驚くほど化ける。そこから「この衝撃を一般の人たちにも伝えたい!」という話になったんです。

百聞は一見にしかず

そんなにすぐ味が染みこんだり変化するなんて、想像もつかないです!

ゆかこさん
試しに食べてみてください。フライパンでつくねを焼いたあと、『たれ』をかけてみます。

こんなサッとかけるだけで、味がつくんですか?

ゆかこさん
生の魚にも染み込みやすいよう浸透圧を高めた調味料なので、塗る程度でしっかり味がつくんです。…どうですか?

ほんとうだ…十分染み込んでます、じっくり漬け込んでから焼いたみたいだ…。

ゆかこさん
ケチャップを加えるとハンバーグソース、ここに酢をちゃちゃっと加えたら酢豚になりますし、メープルシロップを加えたら大学芋、チリソースを加えたらエビチリに変身します。

これ1本でなんでもできちゃうんですね…!

ゆかこさん
私たちもこんなにバリエーションがあるなんて気がつかなくて、今もお客さんたちにレシピを教えてもらったり実験することで新しい味を発見しています。

使う人たちの生活になじむデザイン

たしかに「たれ」がすごい調味料だってことがわかりました。これをどんなふうに販売されたんですか。

よしゆきさんさん
しばらくは「万能たれ」という名前で、小さなお店に並べてもらっていたんですけど、2010年ころ、博多阪急さんができるタイミングで商談会に出たんです。

「万能たれ」時代のパッケージ

他の店舗へも営業をされたんですか?

ゆかこさん
「小売の実績がないから棚には置けない」とスーパーも百貨店もことごとく断られました。でも博多阪急さんは「自分たちも新しくこの地でスタートする仲間。一緒にチャレンジしていきませんか」と試食販売を提案してくれたんです。

それはうれしい言葉ですね…!

よしゆきさんさん
試食販売することが決まったタイミングで、キャッチーで土地の色が出た名前にしようということで「博多ニワカそうす」に名前を変えました。

このタイミングで現在の名前になったんですね。試食販売の反応はどうでしたか?

よしゆきさんさん
最初のころは、必死に声を出しても見向きもされない。(笑) 見た目に問題があるのかなと思って、スタイリッシュなデザインに変えてみたんです。それでも売れない。

あれ…。

よしゆきさんさん
お客さんの反応を見て観察したことをデザインに反映させる。これを繰り返していきついたのが、今のパッケージです。

たぬきのイラストが描かれていますね。

ゆかこさん
どうやら店頭に並べると、たぬきとお客さんの目が合うみたいで。これまでに比べて格段に手にとってもらえるようになりました。

なるほど! たぬきと目が合う。

よしゆきさんさん
そう。ちょっとしたコミュニケーションというか。店頭もそうですし、その先の台所では料理の苦手な人をたぬきが応援していたり、食卓では親子の会話の中心にたぬきがいたり。使う人たちの生活になじむところまでデザインしたんです。

店頭に立たれたことで、大きな気づきを得られたんですね。

よしゆきさんさん
そうですね。完璧すぎるものよりも、ちょっと「すきま」があるものがちょうどいい。醤油店を継いで自分で販売していなかったら、この大切なことに気付けなかったと思います。

悔しい想いをしたからこそ、ここまで来れた

その後はどのように展開されたのですか?

よしゆきさんさん
博多阪急さんでの試食イベントを重ねていくうちにリピーターさんが増えてきたので、大きいサイズの販売をはじめました。だんだんと「次の販売はいつか?」と問い合わせがくるようになって、ついに常設してもらえることになったんです。

2012年ころの販売の様子

よしゆきさんさん
この実績のおかげで取り扱い店も増えて、現在は福岡にある全ての百貨店に置いていただいてます。

9月にOPENしたばかりの六本松 蔦屋書店でも試食販売

どんどん拡大されたんですね。すごい…!

ゆかこさん
テレビなどの取材も増えて、うちに直接商品を買いに訪れる人が増えてきたんですけど、当時はまだプレハブの事務所しかなくて。それでつくったのがこの場所なんです。

もともとは友香子さんの伯父の家だった実店舗

実店舗も手に入れて。長い道のりでしたが、ようやく順調に…!

よしゆきさんさん
まだまだ成功とは言えないですけど、ここに至るまで何度も「店をたたんだほうがいい」と言われてきたから、今は「どうだ!」という気持ちがありますね。(笑)

人気を受けて「博多ニワカそうす」のレシピ本も出版!

ここまで大変だったけれども、やってこれた理由は?

よしゆきさんさん
どんなに辛い時もお互いに「やめよう」と口にしないできたこと、そもそも二人じゃなかったら絶対に続いてなかったです。
ゆかこさん
本当に。二人だからやってこれました。売れないときも上手くいかないときも「悔しい!」と思っていたのも、よかったかも。そこで「ま、いっか」で済ませると、終わっちゃう。悔しさをバネにしていればオセロで全てがひっくりかえるように、人生のどこかで好転することがあるんだなって身をもって感じました。

僕たちが売るのはただの黒い液体じゃない

今後やってみたいことはありますか?

ゆかこさん
このお店のバルコニーを使って、親子のワークショップができたらいいなと考えています。子どもたちがニワカそうすを使って料理して、お母さんを喜ばせる。実は百貨店さんで何度かやってるんです。

博多阪急での母の日イベント

ゆかこさん
料理する人と食べた人が喜ぶ姿を見るのが大好きなんです。それをこの場所でつくれたらいいなって考えています。

なるほど。良幸さんはどうですか?

よしゆきさんさん
「博多ニワカそうす」を販売するようになって、僕たちのやっていることは醤油店じゃなくて幸せをつくるお手伝いなんだって気がついて。醤油とそのまわりのデザインで、幸せになる人を増やしていきたいですね。

幸せをつくるお手伝い…?

ゆかこさん
これはほんの一部なんですけど…「主人にこのソースでハンバーグをつくったら、毎日食べたいと喜んでくれて仲を持ち直しました!」と主婦の方が報告してくれたり、「ぱたりと家に遊びに来なくなった孫が、このソースでつくったオムライスを食べに遊びに来てくれるようになった!」とおばあさんが報告してくれたり。嘘みたいな話が、どんどん飛び込んでくるんです。

よしゆきさんさん
だから、どこでどんなふうに幸せにつながっているかはわからないんですけど、このソースがどこかの食卓に幸せをもたらしている、ってことに確信がもてたんです。それがやりがいというか…これからもやっていきたいことです。調味料は料理をとおして幸せになるための脇役であって、主役じゃなくていい。だれかの「おいしい!」「ありがとう!」のあとで「使ってよかった」と感じてもらえれば、それでいいんです。
ゆかこさん
うんうん。料理が苦手な人、子育てで忙しい人、仕事で時間がない人。みんなの幸せを応援できるように、私たちのつくる醤油やソースを広めていきたいです。

今日はすてきな話をありがとうございました!

今回ご紹介したショップ

タケシゲ醤油
福岡県福岡市、博多で250年以上の歴史をもつ醤油店。

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